山谷「カフェ・バッハ」

住所は台東区日本堤。まわりの雰囲気からは浮いて目立つ上品な店。
店内はとても綺麗でテーブル席も十分に広く、豆がずらっと並びコーヒーを入れるのが見られるカウンター席も良さそうだった。接客が驚く程にきちんとしていて、その上山谷という場所にあるだけに妙な気分に。朝五時から飲み屋が騒がしい様な場所ではそこだけ異空間に見えた。

その日は雨が降っていたんだけど、傘は袋に入れて席まで持っていく、傘をもっていなさそうな客が外に出る時は予備の傘?を渡そうとしていた。
他の客は常連らしき人が多くて、客同士で挨拶があったり、店員と挨拶(接客としてのとはまた違う)をしている場面も見かけた。
お冷や、窓拭き、本の配置を直すタイミングとかも初めて見る自分には「おっ」と目に入ってきたが、上品かつ嫌みなくていいなあと思った。
本と言えば、夏に行ってきた山形の酒田市土門拳記念館の記念誌が置いてあってしばらく読んでいた。誰のものを店に置いてあるのかは分からないけど、新聞の関連記事の切り抜きが挟んであって、すごく嬉しくなったのだ。

頼んだのはターキッシュコーヒー。800円だったかな。ちょうど前日にクルド難民の映画を見たので、よっしゃトルコだ、と思い立ったのだ。
確かスゴく甘いものだという記憶があったんだけど、そうではなかった。
小さな柄杓の様な棒付きのカップにコーヒーが入っている。下には豆が沈んでいてどろどろ。
それを飲むカップはさらに小さく可愛くて、取っ手が人差し指のギリギリ入るサイズで取っ手と同じ位のカップの大きさである。持つ所も金属なので、コーヒーを注ぐと少しアツい。
もとから甘くしてあるとの事だったのでそのまま頂く。確かに少し甘いがそれ以上に驚くのは酸味。かなり強い。しかし後を引かなくて、サッパリしている。酸味の強いコーヒーは好きじゃなかったんだけどこれならいける。
小さいカップにして四杯くらい飲むことが出来る量だった。

そういえばコーヒーを飲んでいる間に気づいたのだが、椅子には全てBACHの刻印がある。テーブルも見たことが無い様な面白い脚をしている。価値は分からないが、相当良いものなんだろう。

コーヒーも店も店員も客の雰囲気も良くて、一つ一つのモノにお金をかけない様にした旅行の中でもとびきりの贅沢になったのだった。