森岡正博『草食系男子の恋愛学』

立ち読みで済ませようとしたけど、側に置いておいた方が良いよ、と誰かが語りかけてきたので購入。
こういう本を買うのが初めてだったので、ちょっと気恥ずかしかった。あとイラストが浅野いにおなのは分かりやすいというかあざといというか。
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ここ最近考えてきたことにうまく回答をくれたり、似たような事を考える人は居るのだなという思いもあったりする。自分にちょうど良い(と思わせてくれる)本。ムリしなくていいんだな、という事。

いわゆるモテ本と違う、というのは作者も書いているけど、確かにそうだ。結局は「騙されるより騙せ」にしか見えない女性蔑視とも取れるテクニックとは違う。

恋愛学、と名のついた本ではあるが、「優しい」とは「誠実」とはどういうことなのかを考え直す良い機会になった。都合上、男女に分けて語ってはいるけれど、話を聞いてもらってうれしくない人間は多分いないし、あいさつが嬉しくない人間もあまりいないだろう。
「今日は良い天気ですね」は最強。という話をこないだ友人としたのだけど、確かに話の内容としては大抵何にもならないが、気づくと口に出ている言葉である。
「会話の内容」に気を取られすぎて、「相手との関係」をないがしろにしていないか。バランスをとらなければいけないと思った。自分はどうも内容にばかり気を取られてしまう。
そもそも俺は「ほのめかし」や「社交辞令」など「言外に意味がありすぎる会話」があまり好きじゃないんだ、そういえば。
逆を言うと、それを受け止めるだけの余裕が無いのである。
しかも好きじゃないからと言って、自分から使わないようにする事と相手が使う「ほのめかし」を受け止められるかどうかは違う問題だ。
「心がけ」と「要求」を混同してはいけないのだ。当然の様だが、つい忘れそうになる。俺の傲慢なところだと思う。


自分を理解してくれる人間を求める心と、親友を求める心と、女性に対する恋心を、はっきりと区別するのは、とても難しいことなのだ。(p27,28)

俺は「異性(恋愛対象)として好き」と「一人の人間として好き」が妙に離れている(ように見える)恋愛が気持ち悪いのだ。理解はできるが共感は出来ない、気持ち悪いは言い過ぎかもしれないが正直よく分からない。異性として好きってだけで、一緒の時間を楽しくすごせるの?みたいな。俺が最近まで都市伝説だと思っていたセフレというものは、「異性として好き」だけが極端に高まった状態、なのかな。
「一目ぼれ」などを真っ向否定する訳じゃないのと、見た目が関わってくるのは別に異性との関係だけじゃないというのは前提として。そこを話し始めるとキリがない。
感情というものを数値にしたり、割り切ったりする事が非常に難しいというのはごく自然なことだ。男女の友情、みたいな話にも通じると思うが、男女の関係をすぐ恋愛に結びつけるのはよしてほしい。俺は異性愛者だけど、そういう風に考えていたら、この世のおよそ半分の人間とは恋愛以外の事が考えられなくなる。そんなの面白くない。




会話について。
女性的とされる「共感」。そればかりの会話、「分かるよ」が過剰なコミュニケーションは俺にはとてもつまらない。何も新しい内容を生み出さない。こういう俺の考え方も非常に「男性的」とされるものに近い。
だから女の子が「イヤ、私はこう思う」ってくるとうれしくなったり、ドキッとする事があるんだけど。そういう意味で大学での論議が楽しい事もある。
そこらへんの折半をうまくつけてくれたかな。予定調和が嫌いだということと、プロセスを楽しむことを両立させるのも不可能ではないハズ。
あるいは相手が男だからこう女だからこう話す、ではなくて相手がどういう会話を望んでいるかをうまく汲み取れたらいいな。そういう事を指すのが「空気を読む」だとすれば、その能力はほしい。読みたいのは意思とか意図みたいな表面に表れやすいものではなくて、もっと内面的な所。



あと意外な所で心に突き刺さったのはレイプのことかな。
俺が「ひどく好みじゃないタイプ」の女性にレイプされたらどういう気分だろうか、というのは想像した事がある。
しかし、妊娠の所までは想像力がいかなかった。俺が男のままでは身ごもらないのだ。俺は「ジュニア」のシュワルツネガーではない。
好きでも無い女性との子供をつくる事も十分イヤだが、妊娠するかもしれないという恐怖はそんなものを遥かに上回るんじゃないか。

レイプの話題以外にも視点の多様さが良いと思う。あくまで男性の語り口ではあるのだが、こういう考え方もあるよ、と言われると自分の考え方の硬さに気づかされる。


エピローグの「暗い青春には意味がある」では、著者自身の事を語っているが、そこに恋愛の話は無い。全体の流れから少し外れているようにも見えるし、著者から男性たちへのエールというよりは、自己肯定のエッセイに見える。しかし、なかなかアツい文章で心に残るものがあった。
名画座で映画を見まくった話が出てくるが、エッセイなどで名画座というものを聞くたびにうらやましくなる。今は「タダ」で映画が云々、と思うかもしれないが、そういう「場」があるという事がいいのだ。幻想かもしれないが。


この本が実際に役立つかどうかはまだ分からない。そもそも即効果があるような「テクニック」とは一線を画すという事は先に述べられている。それでいいのだ。良いと思う部分を心がけにすれば良い。
こう思えるのは作者の優しさみたいなものが伝わってくるからかもしれない。
読んでよかった。





・著者、森岡正博さんのブログ:感じない男ブログ
サイト:LIFESTUDIES.ORG/JP