山谷の四時。

十一月九日の話。東京、南千住駅近く、山谷。

朝三時半に起きる。何故かというと四時くらいから集まりだすと言う人たちを見るため。四時半、ホテル近くの玉姫公園のフリーマーケットに行く。なんだかすごい名前の玉姫公園は柵がしてあるのだけど、その周りに何人もが「住んで」いる。長方形の公園の、二辺をまるまる使うくらいに店は展開していた。

前日行ったときはなんだか怖いような気がしていたのだが、二日目はそうとも感じなかった。一応目立たない様な格好をしていったのだけど、若い人というのはそれだけで目立つらしい、目線をすごく感じた。
フリーマーケットで売っているものは様々で、ドライバーやドリルみたいな山谷らしいものを売っている人もいれば、弁当を売っていたり。
出店されているのは、どっかから取ってきた様なモノ、拾ってきたようなモノが多かった。服がやはり多いけど。

MDプレイヤーが売っていて、その近くに曲を入れたMDが300円くらいで売っている。おそらくPCを持っている割合は少ないであろう山谷の労働者たちには、MP3プレイヤーよりはMDの方がいいんだと思う。
職人道具であるところのドライバー?等は相場が分からないけど、その他は基本的にはそこそこ安い。

これは前日の話であるが、分厚い本を持った人が歩いてくる、知り合いらしいオッチャンが話しかける。「よっ、分厚い本なんか持って偉いねえ、天下の本読みッ! …マンガの…」もう相手は近くにはいない。

店を出していた一人に、前日近くの定食屋で話しかけられた人がいた。おっちゃんは味のある良い喋りだと思っていたら中国人だったらしい。そういえば前日には自分も「お兄ちゃん日本の人?」などと言われし、ここらではごちゃまぜで分からない位なのだ。
「センセ、この近くに泊まってたの?学生サンがこんなトコで。」やはり感じの良いひとだったなぁ。

店を出している人の中には明らかに「良い服」を着た人たちもいて、なんなのだろうと思ってしまった。あとは労働者風、ホームレス風、テキ屋風。
客は肉体労働者ふうの人が多いのだけれど、自分みたいな旅行客やもぽつぽついた。もしかしたら日曜日だったからかもしれない。

公園を抜けてまわりを色々歩いてみる。目立つ角にある立ち飲み屋のあたりが騒がしい。朝五時である。十二時間くらい逆転しているようだ。イヤな感じを与えないように極力目立たないようにして、通りの向こうから写真を撮ったのだが、近くを通った人に「なにとってんだ!」と凄まれ、その後ジロジロと見られた。ごめんなさい。

しばらく徘徊をしていたらボロボロの通りには全く似合わないオシャレな男性集団がいる。何かの撮影をしている。聞いてみたらwebマガジンの撮影だと言うが、ずいぶん早い時間からおつかれさまである。その時に黒いスーツを着たおじさんに話しかけられた。「お兄さんここらへんに住んでるの?珍しいね、若い人。それともここのキリストの人?」そこはちょうど教会の近くだったのだ。山谷には教会支部がすごく多い。炊き出しやら色々なボランティアをやりやすいようにかな。
たぶん、そのおじさんはヤクザで、撮影をしていた兄さんたちが呼んだのだと思うけど。人から文句を付けられないように呼ぶのは警察ではなくヤクザである、というのが事実だとしたらなんだか悲しい。

アーケード「いろは会」にも行ってみた。ションベンくさい。くらい。自転車がいっぱい。

朝六時頃。六時半に労働福祉センターが開く。そこで仕事を獲得するためにあける途中のシャッターの下から潜り込む「レース」があるというのを本で見たのだが、人は二三人しかいなかった。やはり日曜は無いのかな。

七時頃ホテルに戻る。