中島義道『ひとをということ』

ひとを“嫌う”ということ (角川文庫)

ひとを“嫌う”ということ (角川文庫)

「はじめに」で著者が述べるように人を好きになることについての本はたくさんあるけど、その逆、嫌うことについての本は少ない。本来、人を好きになるということと同じように嫌いになることは人生にかかせないものハズなのに。嫌い、という感情もごく自然なものだということ。
この本で述べられるのは自分の中の「嫌い」と如何にうまく向き合うか。好きという感情がとてもささいな事から生まれる様に、嫌いという感情も如何に瑣末なことから生まれるもの、理不尽なるものかを「なるべく」理解する。完全に理解、分析出来ることはないだろうし、やろうとすることはない。キリがない。
そして豊かな人生のために「嫌い」をも味わい尽くすということ。

皮肉とか自虐とかもたっぷり詰まっていて、一見イヤミったらしいように見えるんだけど、何故か俺にはやさしくひびく文章。そもそも俺も「うわべ」を嫌う人間なので、シンパシーを感じる点も多いんだけど、著者ほど徹底して考えていない。「うわべ」だけの付き合いとは「嫌い」という感情を全く否定、排除しようとしているように見えるし、そこに本当の「好き」も無い気がするので。
読んでいて、自分の行動や思考を振り返り恥ずかしくなる事もあるものの、それはもっともなことで自分の中の「嫌い」という感情と向き合うことだし、必要なことなんだと思う。

過激そうに見えても、納得することしきりの文である上に時折挟んでくるギャグがたまらない。こればかりは読んで欲しいので書かないというか本を読まないと面白さが分からないと思うけど、あとがきには声を 出して笑った。うまく内容と折り合いをつけながらする自分語りのバランスが良いと思う。

久々に色々な人にすすめたい本だが、こんなタイトルの本を直接薦めたらなんだかその行動を深読みされそうで怖い。つまり、嫌われたくない。本を薦めるなんて自分が興味をもっていて、ある程度の行為を持った人間にしかしないのに。