小田実『何でも見てやろう』

何でも見てやろう (講談社文庫)

何でも見てやろう (講談社文庫)

1950年代終わり頃に留学生としてアメリカへ行き、欧米、アジアの諸国を二年間貧乏旅行した事を書いた作品。
昔ヒットして、いわゆるバックパッカーのバイブルとなったらしい。
確かにすごくスゴク面白かったし、旅行欲をかきたてまくる本だった。
気取りの無い知性と素晴しいユーモアに支えられている。

作者は「何でも見てやろう」の精神の下に旅をしたからなのか、天性のものなのか分からないが、どんな状況でも何とでもしてしまう能力がスゴい。
そしてソレが物語をすごく面白くしている。

それは前半の「西洋」編から、後半アジアに行くにつれて変わりまくる状況に対応出来る素晴しさだ。

前半、アメリカからヨーロッパあたりは、確かに貧乏ではあるがとても楽しそうだ。ふざけた会話や色々な女性をくどいた話が多い。色々というのは人種的な意味でもまさに「色々」だ。
そして作者は女性だけでなくて人を口説くのが上手い。転がり込むのが上手い。
そこら辺は特に自分が見習いたい所。

後半は、ギリシャからエジプト、イラン、インドと少しずつ東へ移動する中で、貧困の問題が作品の多くを占めるようになる。
作者個人単位の貧困から、その国や地域の貧困へと問題が大きくなるのだ。

しかし、問題が大きくなるということは机上の論になるという意味では無い。

貧乏旅行をしている中で、作者自身が身を以って感じる事で、より大きな問題を現実的に考えることが出来るという事だ。


読んでいると、後半はユーモアというか冗談の類がどんどん少なくなっていくことに気が付く。
上に書いたように、作者自身が切羽詰っていたのだろうし、そういう事を思わせない様な環境であったのだろう。


読んでいる間は、ずっとコレが書かれた年代を意識していた。
はたして何処までが現代に通ずるのだろうか。
作者が各地のインテリに聞かれた「お前はZENブッディストであるのか」という問いは、今ではどういう文句になっているか。
自分で「見てやろう」かとも思う。



自分は以前TotalFuryというバンドに居て、一年前のゴールデンウィークに10日ほどのアメリカツアーへ行った。
読んでいて、その時の事を書いていないのを思い出した。mixiに書くつもりだったが、その時はいまいち整理がつかず書かずじまいだった。ちょうど良い機会なので、このブログに書こう。
持って行った手帳にも全然書き込みが無いけれども、多分それが自分のせいいっぱいだったのだ。
多分受け止めきれてなかった。十日間の話ではあるけれど。

今なら出来るからやる。