島本和彦『アオイホノオ』

アオイホノオ 1 (ヤングサンデーコミックス)

アオイホノオ 1 (ヤングサンデーコミックス)

島本和彦の大学時代を元に書いた、島本版の『まんが道』。フィクションでありながら、フィクションでない。
80年代初頭の芸大を舞台に、島本と庵野など当時の仲間たちを描きつつ、マンガへの「もんもん」を描いている。
ただ、『まんが道』が男二人の友情物語の要素を大きく含むのとは違い、主人公・焔燃(ホノオモユル)にはマンガの相方がいるわけではない。そして、マンガへの情熱はあるがいまいち行動へ移しきれないという葛藤と島本節の間違った?アツさを合わせ持つ人物。
ココが巧い所で年上トンコというヒドい名前の女性をモユル(島本)へのツッコミ役に置くのだ。トンコはゆるく、可愛く、しかし物言いはハッキリしているという役柄で描かれているために、漫才形式で上手いこと話が進んでいくのである。

87生まれの自分に世代間ギャップとして印象に残った話があって、一つはビデオが無いので30分のアニメを気合い入れて覚えるという所。もう一つ、電話も持っている人間は少なかったので、人に会うためには、出会うしかなかったということ。
前者には、ファイル共有、youtube、ニコ動で増えたと言われる、いわゆるヌルオタには分からぬであろうアニメへの「愛」を感じる。ストーリーの中ではマンガの方が安価で持ち運びができて、誰でも楽しめる、という比較のために出てくる感じ。
現在とはかなり違う価値観な気がするな。

ただし、いくら携帯電話やiPodで動画(この場合はアニメ)が見れようとも、本の持ち運びやすさは強力だけど。
後者を語るには、携帯電話の存在が大きすぎて今更言うこともないか。自分の場合は、高校入学時、皆が一斉に持ち始めた感じ。
自分はわざわざ連絡するより「出会う」という事が結構好きではあるが、ただ他に手段が無いとなると話は違うかもしれない。この話は上記のアニメの事にも言えるけど、「そうするしかなかった」という事だから。

あとは、永井豪マンガの悪役の如く描かれる、庵野秀明の描写が面白すぎる。必見。登場人物の元ネタが少し分からない所もあるが、皆、濃ーーーーい人物。
巻末に島本と庵野の対談があるので、そこも見所。対談ページの表紙でポーズを決めるオッサン二人が素晴らしい。どちらもルックスは渋くて格好良いだけに、真顔でのポーズが決まり過ぎ。

続きが楽しみな作品がまた増えた。