素直に鑑賞する。

今、自分が一番楽しみにしている大学の授業は、金曜日にある芸術の時間だ。
その授業は、まず作品名や作者、制作年代の情報無しに、絵だけを各自が観察、考察する。そして生徒の内二人が気づいた事を発表し、それらについてあーだこーだ言う授業である。それらが終わった後に、作者、作品名などの解説が行われる。
作品の詳細が明かされないからといっても、体系的な知識があればもちろん様々な予測が出来るので、スムーズに鑑賞が出来る。しかし自分の様に芸術を専攻していない学生だからこそ、何かに囚われずに言える事もある。皆で一つの作品を観察する楽しみはそこだ。あまりにも見ている点が違っていて驚いたり、逆に「ここは皆が気づかないだろうな」とニヤリとしていると、自分以外の前に立った学生が指摘したりする。
そう考えると、想像の余地が大きい絵画の方が面白い議論にしてくれそうだ。そういう意味では今回見たジョルジュ・ブラック<二重奏>は抽象的すぎず、良い感じに勝手な想像を述べ合うことが出来た。

「壁の模様がヴァイオリンのf字孔に見える」
「私にはツタに見える」
「f字孔とは違うんじゃないの」
「いや、楽譜で四分の四拍子をあらわすCに見えるぞ」
「右の画中画にも4みたいな形が見える!」
「な…なんだって!!??」

どこのMMRだよ?とお思いになるかもしれないが、これがなかなか楽しい。今日の授業では、音楽をやっている学生が数名いたからこんな感じだった。

更に教授もなるべく思考を凝り固まらせないように、議論の交通整理を巧くやってくれるのだ。同じ作者の他作品や同時代の作品との比較、作品それ自体の詳細などは掘り下げたければ自分で調べればよい。
今回のお題<二重奏>も画面に描かれた人物は二人、ピアノは一台。何故二重奏?絵を観察した後にタイトルを知って、更に考察が出来るというのはなかなか楽しいことではないか。まだ調べていない現時点では推測しかできないのだけれど。

「講義を聴いているだけ」や「発表は学期に二回」などと受動的になりがちな他の授業に比べて、かなり集中力がいるが、凄く楽しい頭の運動である。来週で終わってしまうのが残念だ。最終回は何故かゲストの教授を招いて、昔の陶器に素人が書いた絵を見るとのこと。これまで見てきたものは基本的に西洋絵画の有名所だったのだが、最後に変化球とはなかなか洒落たことをするものだ。