手塚治虫『奇子』
- 作者: 手塚治虫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1981/08/10
- メディア: コミック
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終戦直後の政治事情と田舎のある一族とのスリリングな絡み合い。
スポットの当て方というか、マクロ(政治事情、「日本」)とミクロ(天外一族、奇子)視点の切り替えが非常に巧みだ。
いくつかの事件を中心に展開するサスペンス的な部分ももちろん良い。
しかし、それ以上に事件の中心となる天外(てんげ)一族の人たちの描かれ方が心に迫る。
何を考えているのだかいまいち分からない。
善とも悪ともつかない。
記号的じゃないし、一貫性もそんなに無い。
漫画として分かりやすくは無いかもしれないが、人はそういうものだと思う。
そこに「リアル」を感じた。
何かを理解しようとするのに、すぐ二元論を持ち出したり、「あの人はこういう
人だ」などと決め付けるのは、大抵の場合、問題を分かりやすくしたいからだ。
実際人はそこまで記号的では無いのではないか。
よくあの人のキャラがどうの、とか言うけどさ。
この話は、上下巻の二冊(自分が読んだのは大都社版)で終わっているが、手塚としては長編で書きたかったらしい。確かに奇子自体はあまり動きがないまま終了してしまっている。
書いていたなら、もっとスケール大きく、かつ細やかに人情を描く漫画が見れただろう。